仙台高等裁判所 昭和27年(ナ)6号 判決
原告 佐々木庸
被告 橋本善寿
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は、「昭和二十七年七月二十四日施行の福島県西白河郡川崎村村長の決戦投票の選挙における被告の当選を無効とする」との判決を求め、その請求の原因として、
一、原告は右村長選挙における選挙人であつて、被告は右村長選挙における当選人である。
右村の村長選挙は、さきに昭和二十七年七月十七日施行され、被告はその候補者の一人であつたが、該村長選挙においては法定得票数である有効投票の総数の八分の三以上の得票者がなかつたため、有効投票の最多数を得たものとして被告及び本柳正一郎が本件決戦投票の選挙の候補者と定められ、右決戦投票の選挙の期日を昭和二十七年七月二十四日として同月十八日告示され、同年七月二十四日前示決戦投票の選挙が行われた結果、被告が当選人と定められたものである。
二、被告は右最初の村長選挙において出納責任者として橋本喜代次を選任し、その頃同村選挙管理委員会にその旨の届出をしたものである。右最初の村長選挙における選挙運動に関する支出金額の制限額は金五千八百円であつて、昭和二十七年六月二十七日その額が告示されたものである。従つて本件決戦投票の選挙における選挙運動に関する支出の金額は、公職選挙法第百九十四条第二項により右制限額の六分の一に相当する(但し金百円未満の端数は金百円として計算する)金千円を追加した範囲を超えることができないのであつて、即ち右村長選挙の前後の場合を通じ結局本件選挙運動に関する支出金額の制限額は、合計金六千八百円となるものである。
三、しかるに被告は本件選挙運動に関する支出の総額を金五千四百八十五円としてその旨の報告書を同村選挙管理委員会に提出しているのであるが、これには左記(イ)及び(ロ)の支出額を計上していないのであつて、これを計上するときは前示選挙運動に関する支出金額の制限額を超過するものである。
(イ) 被告は、昭和二十七年七月二十日午後二時から午後十一時まで九時間、オート三輪車(普通型のもの)一台及び拡声機(直流式電源用のもの)一台を村内十二箇所の街頭演説会において本件選挙運動に使用したものである。右オート三輪車の使用料は金千八百八十円、右拡声機の使用料は金二千二百五十円であつて、これらの使用料合計金四千百三十円は、当時被告の出納責任者が候補者である被告と意思を通じて支出したものである。仮に被告においてその支出義務を免れているとすると、右オート三輪車の使用料は小型自動車の公定使用料価格により、右拡声機の使用料は福島県白河ラジオ商工組合の協定使用料価格により計算したものであつて、被告はそれだけの経済上の利益を得ているのであるから、結局右経済上の利益を金銭に見積つた右使用料価格相当の支出があつたものというべきである。
(ロ) 被告は、昭和二十七年七月二十二日から同月二十四日まで三日間、同村大字泉崎木村清一方、同村同大字渡部敬治方、同村同大字星重雄方、同村大字踏瀬佐々本一義方の四箇所において選挙運動員合計百名に対し一日二食宛合計六百食分の炊出を行い、その食事を提供したものである。右食事提供の費用は一食分につき金五十円として六百食分合計金三万円であつて、右は候補者である被告が自ら支出したものである。
四、以上の次第で前示選挙において公職の候補者である被告のために支出された選挙運動に関する支出の金額は前示制限額(公職選挙法第百九十四条第二項による追加の分を含む。)を超過するため被告の前示当選は無効であるから本訴請求に及ぶものである。
五、被告の仮定抗弁事実中、橋本喜代次が永年小学校の校長を勤め現在村の公民館長であることは争わないが、その余の事実は争うと述べた。(証拠省略)
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、
原告主張の一及び二の事実は認める。
同三の冐頭記載の事実中、被告が本件選挙運動に関する支出の総額を金五千四百八十五円としてその旨の報告書を同村選挙管理委員会に提出したことは争わないが、その余は争う。
同三の(イ)の事実中、被告が昭和二十七年七月二十日午後三時三十分から二時間三十分の間原告主張のオート三輪車一台を、同じく三時間原告主張の拡声機一台をそれぞれ村内十箇所の街頭演説会において本件選挙運動に使用したこと、右オート三輪車の使用料は金二百五十円、右拡声機の使用料は金三百円であつて、右使用料は当時被告の出納責任者においてそれぞれこれを支出したことは、いずれもこれを認める。原告主張の小型自動車の公定使用料価格、拡声機の協定使用料価格はいずれも不知。その余の事実は争う。被告の支出した右使用料合計金五百五十円についてはその旨原告主張の報告書に記載してあるものである。
原告主張の三の(ロ)の事実は否認する。
以上の次第で本件選挙において被告のために支出された選挙運動に関する支出の金額が原告主張の制限額を超過した事実はない。仮に原告主張の三の(イ)の支出による右制限額超過の事実があつたとしても、被告の出納責任者である橋本喜代次は永年小学校の校長を勤め、現在村の公民館長をしている点からみて間違のない人物で、被告は出納責任者の選任及び監督につき相当の注意をしたものであり、且右支出については出納責任者において過失がなかつたものである。よつて被告の当選無効の宣言を求める原告の本訴請求は失当であると述べた。(証拠省略)
三、理 由
原告主張の一及び二の事実、並びに原告主張の三の冐頭記載の事実中被告が本件選挙運動に関する支出の総額を金五千四百八十五円としてその旨の報告書を川崎村選挙管理委員会に提出した事実は、いずれも当事者間に争がない。
先ず原告主張の三の(イ)の事実につき案ずるに、被告が昭和二十七年七月二十日午後三時三十分から二時間三十分の間原告主張のオート三輪車一台を、同じく三時間原告主張の拡声機一台を、それぞれ村内十箇所の街頭演説会において本件選挙運動に使用したこと、右オート三輪車の使用料は金二百五十円、右拡声機の使用料は金三百円であつて、当時被告の出納責任者においてそれぞれこれを支出したことは、いずれも被告の認めるところである。原告は、右オート三輪車及び拡声機の使用時間はそれぞれ九時間でその使用料はそれぞれ金千八百八十円及び金二千二百五十円である旨主張するが、右使用時間及び支出使用料が被告の認める範囲より長時間多額のものである点については、原告本人訊問の結果をほかにしてこれを認めるに足る証拠なく、原告本人訊問の結果のみによつては証人大野与三郎、関猶彌、小林清一、橋本喜代次の各証言に照し右原告主張の事実を認めるに十分でない。しかして証人大野与三郎、関猶彌、小林清一、橋本喜代次の各証言、成立に争のない乙第五号証の三を綜合すると、本件選挙当時川崎村においては、右オート三輪車と同種の三輪車を一般に他に賃貸する場合その使用料は大体一時間につき金百円を普通の相場とし、又同じく右拡声機と同種の拡声機を一般得意先に賃貸する場合その使用料は大体一時間につき金百円を普通の相場とするものであつて、被告の出納責任者が前示オート三輪車及び拡声機の使用料を支出したのも右相場によつたものであり、右使用料は本件選挙のために特に低廉に定められたものでないことを窺うに足りる。尤も当時オート三輪車については、物価庁告示による小型自動車の使用料公定価として一日(八時間)運転手ガソリン附金千五百円とする定めのあることが明であるが、オート三輪車が右告示の小型自動車に関し従つてオート三輪車の使用料が右告示の価格に公定されているものとしても、その使用料が前示のように選挙当時その選挙の行われた地方における普通の相場によつたものである以上、その使用料が仮令右公定価以下であつてもその使用料の支出をもつて特に低廉なものということはできない。又成立に争のない甲第一号証によると拡声機については、白河ラジオ商工組合の協定使用料価格として一日金千五百円夜間五割増とする定めがあつて、川崎村も右組合の地域内にあることが認められるが、証人大野与三郎の証言によると、本件拡声機は得意先からの申出により一般得意先と同じ扱いで賃貸されたもので新規の客の場合はとも角右のような場合は一般に協定使用料価格は事実上行われていなかつたことが窺われるから、前示のように拡声機の使用料が選挙当時その選挙の行われた地方における普通の相場によつたものである以上、その使用料が仮令右協定価格以下であつてもその使用料の支出をもつて特に低廉なものということはできない。
次に原告主張の三の(ロ)の事実につき案ずるに、この点に関する証人野崎栄治、中野目清二の各証言は証人小林清一、渡部敬治、橋本喜代次の各証言に照し採用し難く、原告本人訊問の結果によつても未だこれを認めるに十分でなく、他にこれを認めるに足る証拠がない。
以上の次第であるところ、証人橋本喜代次の証言により成立を認める乙第一、二号証成立に争のない乙第五号証の一、証人橋本喜代次の証言を綜合すると、被告の本件選挙運動に関する支出の総額五千四百四十五円中には、前示オート三輪車の使用料金二百五十円拡声機の使用料金三百円が含まれていること及び被告が川崎村選挙管理委員会に提出した支出報告書にも右各使用料の支出が記載されていることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右支出の金額が原告主張の法定制限額を超過するものでないことは計数上明であるから、結局本件につき原告主張の支出金額の制限額超過の事実は認められないことに帰する。
よつて、原告主張の支出金額の制限額超過の事実を原因とする原告の本訴請求は失当である。よつて民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 村木達夫 擅崎喜作 細野幸雄)